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専用の茶器はなくてもOK! 自宅で気軽に楽しめる、香り豊かな「中国茶」の世界

気になるけれど、どこからどう飛び込んでいいのか悩ましい中国茶。でも実は、特別な道具を持っていなくても、気軽に楽しめるものなのだそう。中国茶カフェ「甘露」などを営む向井さんご夫婦に話を聞きました。
向井舞子/向井直也
むかい・まいこ/むかい・なおや
東京都内で、中国茶カフェ「甘露(かんろ)」と中国茶館「虫二(ちゅうじ)」を営む。「甘露」では、カジュアルに楽しめる中国茶やお菓子をアラカルトで揃え、「虫二」では、厳選したコースメニューを完全予約制で提供している。甘露として上梓した著書に『はじめての中国茶とおやつ 旅するように知り、楽しむ』(誠文堂新光社)がある。
HP:https://www.kanro.tokyo/
Instagram:@kanro_nishiwaseda
専用の茶器がなくてもOK!
たくさんの種類があって、いろんな味わいや香りが楽しめる。そんな中国茶の世界を知れたら、日常がぐっと豊かになるのではと思います。
その一方で、いざ家で飲もうとすると、「専用の茶器が必要?」「蒸らし方にコツが必要?」「そもそもまず、どこで何を買うところから始めればいいの?」などの悩みがつのり、難しそうと感じてしまうことも……。
ですが、中国茶はかなりカジュアルに生活に取り入れられるものなのだそう。
「特別な道具がなくても、耐熱性の容器さえあれば、いつでも気軽に楽しめます 」と話してくれたのは、中国茶カフェを営む向井舞子さん。
「一番簡単なのは、耐熱性のコップなどに茶葉を入れて、お湯を注ぐこと。茶こしがあると、さらに飲みやすいと思います。容器に茶葉と水を入れて一晩寝かせれば、水出しも可能です」

中国大陸の多くの地域において、お茶はごく身近な存在。そして特徴的なのが、何度も注いでは飲み、のんびりと過ごす文化があること。
例えば四川省・成都には、茶座(チャーズオ)と呼ばれる青空茶館があります。そこでは人々が思い思いに考えごとをしたり、読書やゲーム、おしゃべりを楽しんだりしながら、茶葉が入ったお碗に何度もお湯を入れ、優雅な時を楽しんでいます。

「特に年配の方は、昔ながらのお茶文化に親しんでいて、茶葉を入れた水筒を持ち歩く習慣もあります。駅や空港、高速鉄道の車内などに給湯器が設置されているので、そこでお湯を注げば、いつでもお茶が飲めるんです。また、近年ではカフェスタイルの茶店や、おしゃれなお茶のブランドが増えていて、若者にもお茶への関心は広がりつつあるようです」
現在進行形で変わり続けているお茶文化
中国茶は、名優茶(めいゆうちゃ)と呼ばれる有名なお茶だけでも1000種類以上ある とされており、総数を数えるのはかなり難しいことなのだそう。
「茶葉の味わいは、産地や品種だけでなく、製茶をする方やその年の気候状況でも変わります。また、同じ年に同じ場所で採れた茶葉であっても、寝かせる期間によって味が変わってくることもあるので、それだけでもかなりのバリエーションが存在します。一期一会だと思います」
新しい製法や品種も次々と生まれています。
「中国茶というと、伝統的なものという印象があるかもしれませんが、刻一刻と新しいものが生まれていて、変化をし続けています 。例えば紅茶に関しても、少し前までは中国国内ではあまり飲まれてなかったところを、2000年代に、渋みがない甘くフルーティーな紅茶『金駿眉(きんしゅんび)』が開発され、中国国内で紅茶ブームが起きたと聞いています」
「日本のお茶」との違いは?
お茶は大きく分けると「緑茶」「白茶」「黄茶」「烏龍茶」「紅茶」「黒茶」に分類されます。とはいえ同じ「緑茶」であっても、日本と中国の緑茶では、味わいも香りも大きく異なります。
「日本茶(煎茶)と中国緑茶の違いは、どのような緑茶が好まれているかの違いです。日本茶は、一煎目の段階で甘み、渋み、苦みがしっかり出るように作られています。一方、中国の緑茶は、煎を重ねるごとにじわじわと甘みや旨味が引き出されるように作られていて、さらに茶葉の『見た目』も重要視されています 」

中国茶を購入する際は、香りや見た目をお店で実際に確認しながら購入するのがおすすめ。
「日本国内にある中国茶専門店では、多種多様な茶葉のなかから選び抜かれたものが置いてあるので、おいしいお茶にめぐりあえる確率が高いと思います。
現地で購入する場合は『茶城(ちゃじょう)』と呼ばれるお茶市場がおもしろいですね。膨大な数のお茶やその関連商品が置かれていて、お店の人たちが次から次へと試飲を勧めてくれる。そのなかで、おいしいお茶に偶然出合えたり、もしくは出合えなかったりもする。体験としての楽しさがあると思います」

家で中国茶を楽しむには?
自宅で中国茶を楽しみたい。そんなときにはまず、耐熱容器とお好みの茶葉、お湯を準備すればOK。
「ゆっくりと成分が抽出される『緑茶』や『白茶』だと、茶葉を入れっぱなしで飲めるので、より気軽にトライできます 。沸騰したお湯よりも少しぬるめ(80〜90度)のお湯を入れ、茶葉が開いてきたら飲みごろです。お茶が1/3程になったところでお湯を足せば、何度も繰り返し楽しめます 」

「『紅茶』は高温のお湯で一気に香りを立てるのが推奨されているものが多いのですが、ごくたまに、ぬるめのお湯でゆっくり抽出する方がよいものもあります。『烏龍茶』に関しては、沸騰したお湯を入れるのがベストですね。
詳しい淹れ方は、販売店の説明書きに記されていることが多いですが、香りや味など、茶葉のポテンシャルを十分に発揮させるためには、種類ごとに最適なお湯の温度や蒸らし時間が異なるという点を覚えておくとよいと思います 」

「ちなみにもし専用の茶器が欲しくなった場合、まずおすすめするのは『蓋碗(がいわん)』です。フタ、湯呑み、湯呑みを置く皿がセットになっています。フタを少しずらして、茶葉を抑えながらすすり飲みに使ったり、急須のように使ったりすることもできます」

そして、お茶といえば、やっぱりお茶菓子と一緒に味わうのが至福のひととき。中国茶に合わせるお茶菓子のおすすめはあるのでしょうか。
「地域によっても考え方は異なるのですが、最もポピュラーなのは、ナッツやドライフルーツですね。意外な組み合わせとしては、生のミニトマト 。さまざまな地域でお茶請けとして出てきたので、割合広く親しまれているようです」

沼の底は深いけれど、誰しもに広く開かれた娯楽
「あまりに壮大で、探究に終わりがないことが中国茶の魅力。その一方で、けっしてハードルは高くありません。誰でも、いつでも豊かに楽しめるものなんです 」と話すのは向井直也さん。

取材が終わったあと、ジャスミン茶を淹れていただきました。
まず驚いたのが、お茶と少し離れた場所にいても、香りが鼻先にしっかりと飛び込んできたこと。やさしさ、清らかさ、瑞々しさ、しなやかさなどの多彩な要素を兼ね備えた香りは、口にすることでさらに広がり、時間の流れがゆっくりと和らいでいくような、肩に入った力がするするほぐれていくような、干したてのお布団のような包容力でした。
お茶を味わい慈しむことは、誰しもに開かれた豊かな娯楽なのかもしれません。ご自宅に耐熱性の容器があるすべての人へ。ぜひ一度、この心地のよさを味わってみてほしいです。
撮影:舛元清香(※中国とトマトの写真を除く)
編集:ノオト

高橋 亜矢子
たかはし・あやこ
コンテンツメーカー・ノオトに勤めるライター/編集者。知らない土地やスーパーをうろうろすることと交通インフラが好き。よく使う調味料はお酢。